今さらながら、ヒビトの月面着陸に大興奮!読者歴10年の僕が、もう一度『宇宙兄弟』に感動した話。

アポロ11号による人類初の月面着陸から60年後の2029年。

人類は、遥か遠くの宇宙まで見渡せる「月面望遠鏡」を完成させます。日本人で4人目となるムーンウォーカー、宇宙飛行士・南波ムッタとその仲間たちの手によって。

これは、現在連載中の漫画『宇宙兄弟』の作中で起こっている出来事です。

はじめまして、MOON LANDING 50th ANNIVERSARY 月面着陸50周年プロジェクト、サポーターの井手です!

宇宙兄弟をはじめて読んだのは10年前。当時、社会人3年目の僕は、「本当に自分のやりたいことはこれなんだろうか…?」と、自分で選んだ仕事にモヤモヤを抱えていました。

そんな時、同じように今の自分のあり様に苦しんでいるムッタと出会い、思わず自分を重ねてしまったんです。

そして、漫画の中でムッタを導くために放たれる言葉の数々が、自分の心にもすごく響きました。「今のあなたにとって一番金ピカなことは何?」という問いかけは、今読んでもハッとさせられます。

それから宇宙兄弟を読み続け、もう10年。

出会った頃の頼りなかったムッタは、最新刊(35巻)では、堂々たる姿で月面ミッションをやり遂げ、成長を見届けてきた読者として、なんだか誇らしい気持ちになりました。

(それではここで35巻の記念すべきシーンをどうぞ!)

マンガ『宇宙兄弟』
『宇宙兄弟』35巻
『宇宙兄弟』35巻
『宇宙兄弟』35巻
『宇宙兄弟』35巻
『宇宙兄弟』35巻
『宇宙兄弟』35巻
©小山宙哉/講談社

マンガ『宇宙兄弟』は、少し先の宇宙開発の未来を描いたフィクションです。

ただ、舞台となるJAXAやNASAの組織体制や、そこで行われる訓練内容は実物をモデルに作成され、毛利衛さんや野口聡一さんといった実在する日本人宇宙飛行士も作中に登場するなど、宇宙に関する様々な物事が限りなくリアルに描かれています。

宇宙兄弟を熱心に読んでいた僕は、宇宙兄弟を読むだけで宇宙開発や月面探査について詳しくなったつもりになっていました。「月ではレゴリス(月の砂)に気をつけないとね」みたいな。

しかし、月面着陸50周年を機に、宇宙開発の歴史や現状を知り、「自分は全然わかっていなかった…」ということに初めて気づいたのです。

そして、10年間、読んできた宇宙兄弟に、今改めて大きな感動を味わっています。

ヒーローになった弟。夢から逃げた兄。

本題に入る前に、読んだことのない人のために、簡単に『宇宙兄弟』を説明させてください。

宇宙兄弟は、ごく普通の中流家庭で育った兄弟が、子供の頃の体験をきっかけに「宇宙飛行士になる」という夢を抱き、その夢の実現に向け努力し、夢を実現していくストーリーです。

舞台は、2025年の世界から始まります。

主人公は、宇宙飛行士への夢を追いかける兄のムッタと弟のヒビト 。

弟のヒビトは、純粋に「自分は宇宙飛行士に絶対なれる」と信じ、日々努力し続けます。一方、兄のムッタは、宇宙飛行士なんて現実的ではないと悟り、サラリーマンの道へ。

しかし、諦めなかったヒビトは、努力の末に、ついに宇宙飛行士の夢を叶えます。それは、日本人最年少で宇宙飛行士になるという快挙でもありました。

兄として弟を引っ張っていくつもりが、弟に自分の遥か先を行ってしまった…。

そんな劣等感に苛まれ、兄のムッタは肩身の狭い思いを抱えた日々を過ごします。

そしてある日、ムッタは会社の上司とトラブルを起こし、会社をリストラされ無職に…。

そんなドン底状態の兄を救ったのは、弟のヒビトでした。

ムッタには内緒で、JAXAの宇宙飛行士選抜試験にムッタの書類を応募し、その一次審査に合格したことをきっかけに、兄もまた一度は諦めた宇宙飛行士への道を歩んでいきます。

月面調査開発が着々と進む宇宙兄弟

宇宙兄弟で主軸となる舞台が、ムッタとヒビトが目指す「月」です。

物語では、2026年に弟のヒビトが日本人初のムーンウォーカーとして月に降り立ち、その3年後の2029年に兄のムッタも月面に立ちます。

ふたりが行うメインのミッションが「月面調査開発」。資源の調査や月面望遠鏡の建設に挑みます。

また、宇宙兄弟では、2025年には、小規模ながらも月面基地が建てられ、そこでは様々な実験が行われている様子も描かれています。

ヒビトの月面着陸は、自分の想像をはるかに超える偉業だった…。

このように月面開発が着々と進む宇宙兄弟を読んでいたので、現実世界でも、月に人間が降り立つことは、「そう難しいことではない」と思っている自分がいました。

それが、月面着陸50周年を機に、現実の宇宙開発の歴史を調べていくと、とんでもないことに気がついたのです。

なんと、現実世界では、1972年を最後に誰も月に降り立ったことはない…!!

当たり前の事実に、なにを今さら驚いているんだと思われる人もいるでしょう。しかし、宇宙兄弟を読んでいながら、現実の宇宙開発に対する知識がほぼゼロの僕からすると、これは大変衝撃的な事実でした。

宇宙兄弟では、ムッタやヒビトをはじめ、いろんな人が次々と月に行っています。繰り返しますが、宇宙兄弟は2020年代の宇宙開発を描いた物語です。そして、今は2019年。

てっきり、現実世界でも人類はもっと月に行っているものだと勝手に決めつけていたんですね。

50年前に月面着陸に成功しているにも関わらず、その後、なぜ人類は月に行けなくなったのかを調べていくと、宇宙事業への大幅な予算カットによる資金不足が大きな原因になっていることを知りました。

そして、その予算の問題を解決するために、低コストで人を月に運ぶことができる有人月面着陸船『オリオン』の開発をNASAが進めていることも初めて知り、言われてみれば、ムッタもヒビトもオリオンを使って月に降りていたことを思い出しました。

しかし、最新の報道では、オリオンが完成し、宇宙飛行士が再び月面に立つのは、早くても2024年になる見込みだそうです。

「人が月に降り立つのは、こんなにも難しいのか……」

こうして宇宙開発の極めて厳しい現実を知ることで、ヒビトが月に降り立つ名シーンは、僕の想像の遥か彼方上をいく、とんでもない偉業だったのだと、今更ながら思い知ったのです!!

(それではまたここで『宇宙兄弟』本編をお楽しみください)

©小山宙哉/講談社

うーん……、何度も読んだはずのシーンにも関わらず、かつてない興奮です!!

日本中、いや世界中の人が固唾を飲んで、ヒビトたちの月面着陸を見守る気持ちが、やっと心の底からわかったような気がします。

宇宙兄弟の読者になって10年目の僕ですが、改めて感動し直しました!

宇宙兄弟は、宇宙開発に関する知識がなくても全然楽しめるんですが、宇宙開発の実情を知ると、こんなにも味わいが変わるんですね。

月面開発の歴史や実情についてさらに知識を深めると、これまで何気なく読んでいたシーンの中にも、新しい発見やオドロキを見出せそうです。

宇宙兄弟を200%楽しむためにも、月面着陸50周年を機に、月面開発のリアルをどんどん深掘りしていきたいです。

そして、1972年以来となる人類が月に降り立つその瞬間に、宇宙兄弟で感じた以上の感動を、世界の皆さんと分かち合えたらと思います。

執筆者プロフィール

井手桂司
フリーランスのブランドエディターとして、様々な企業やクリエーターのメディアの企画・編集・ライティングを担当。宇宙兄弟ファン歴10年。特に好きなセリフは「俺の敵は、だいたい俺です」。

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