“誰もが気軽に行ける宇宙を”宇宙ベンチャー:民間ロケット開発の挑戦

多くの人々の「挑戦」によって成し遂げられた人類初の月面着陸の偉業から50周年を記念し、期間限定の本サイトでは「挑戦」をテーマにさまざまなジャンルで活躍する人をクローズアップしていきます。

「MOON LANDING 50th ANNIVERSARY 月面着陸50周年記念サイト powered by 宇宙兄弟」

インターステラテクノロジズ(以下、IST)の事業所は東京と千葉の県境、浦安の下町にあって、一般の町工場といった風情。え、ここで宇宙まで届くロケットがつくられているの? 一見、かなり意外に思えてしまう。

「よく驚かれますよ」

と代表の稲川貴大さんが出迎えてくれた。

 ISTは、2019年5月に観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機」を打ち上げ、民間企業が単独で開発・製造したロケットとして国内で初めて、宇宙空間に到達した。現在は観測ロケット「MOMO5号機」を準備中で、並行して超小型衛星打ち上げロケット「ZERO(ゼロ)」の開発をも進めるISTは、先行する海外小型ロケット企業に負けぬようここ浦安と、本社とロケット射場のある北海道大樹町で活動を続けている。

民間ロケット開発の仕事とは?

「みなさんがメディアを通して宇宙開発の現場として触れるのは、宇宙からの中継映像や打ち上げの瞬間などが多いですよね。それらも一側面だし、僕らもロケットが打ち上がったときの達成感やワクワクが忘れられなくてやっているところはありますけど、宇宙開発ベンチャーの実際の仕事は、かなり地味です(笑)。

 とくに私たちは、部品ひとつひとつから自前でつくっているので、よけい地味にならざるを得ない。設計のプランを立てて詳細な図面を起こして、必要な部品を割り出してそれらを製造する。我々が目指しているのは「世界一低価格なロケット」です。小型でシンプルで安くて、抜群に高性能ではないけれどそこそこ使い勝手がよく、量産するために設計されたロケット。

 専用の工作機械なんてとんでもなく高くついてしまいますから、汎用の工作機械を導入して多くの部品を内製したり、ホームセンター等で材料を調達したりして、コスト削減を目指します。 それらを集めて組み立てたら、試験に次ぐ試験です。温度を変えて試験をすれば動かなくなったり、振動試験をすればネジが飛んだりと、試験をすればいろんな問題が生じますから、それを一つひとつ直していく。

 民間企業なのでお金も時間もかなり限られるので、コストやスケジュールとにらめっこしながら製作を進めていきます。

 うちの現在のスタッフは25人。打ち上げをおこなっている北海道の大樹町の拠点のほうに人が多くいて、ここ浦安に常駐しているのは5人。ロケットだけでなく、プラント、自動車、ITなど様々なバックグラウンドを持つ多様なメンバーで開発しています。そんな人数でロケット作れるのかとよくびっくりされます。JAXAの人も話したら驚いてましたね(笑)」

本当に宇宙へ行けるのか不安は?

「少なくとも僕自身は疑いを持っていませんね。宇宙へ行くものだとはいえ、ロケットはモノとしては工業製品であって、思った通りに機能するかどうかの拠りどころは物理現象です。

 試験・実験を繰り返すと失敗の山が築かれたりもしますが、モノをつくる過程とはそういうものですしね。こう設計したらいいだろうというだいたいの基準はあるものの、実際にやってみると失敗がたくさん出てきます。試験勉強をいくら入念にしても、なかなか百点満点はとれないじゃないですか。どうしてもミスや盲点が出てしまう。それと同じです。やり直しを繰り返して、完璧を目指すよりほか方法はないんです。

国家プロジェクトではなくベンチャーでやる意味とは?

「税金を使うプロジェクトとなれば、国民の総意といいますか、全体が納得するプロジェクトにする必要が出てきますね。そうすると、あまり尖った計画は立てられなくなる。これはどんな分野でも同じですよね。それに、失敗も基本的には許されません。リスクを減らすためテストを入念にしなければならず、コスト増を招きます。

 対してベンチャーの場合は、出資者に説明を通せば、どんなプロジェクトでもできることとなり、大胆に的を絞った開発を進められるメリットがあります。

 意思決定が自由にできて、リスクもとれるし、スピード感を持って開発に取り組めます。これからはそういう民間組織が、宇宙開発の主導権を持つことになっていくのだと思います。私たちもそのさきがけになれたらと考えているのです」

 道のりは決して平坦ではなさそうだけど、稲川さんはたいへんエネルギッシュで、しかも事業の話をしているとき、何やら楽しそう。宇宙を目指すモチベーションはいったいどんなところに?

「シンプルに『人類ってやっぱり宇宙へ行くべきじゃない?』『宇宙のこと考えているとワクワクして楽しい!』といった思いがまずは根源にあるでしょうね。新しいビジネスになりますよとか、成長産業ですよというのは肉付けとして唱えていることで。

 もっと根源的なことを言えば、生命体は海で生まれて陸上に上がり、さまざまな進化を経て哺乳類が登場し、その一種たる人間は文明を得て空を飛ぶようになり、いよいよ宇宙へ向かっている。種の発展として当たり前かつ最前線のことに関わりたいという気持ちだってあります。

 つまりは、これはやるべき仕事であると思っているわけです。せっかく時間をかけて打ち込む仕事なら、意味と意義のあることをやったほうがいいなと。宇宙開発は人類という主語でも意味ある仕事になる、その事実はモチベーションにつながりますね。

 加えれば、僕はエンジニア系の出身なので、自分たちのロケットがいいインフラになって、みんなが新しいものを生み出す土台になればうれしいです」

開発資金はどのように調達するのか?

「そうですね、ベンチャー企業としては資金調達はいつも大きな課題です。ただ、僕たちの開発するロケットは工業製品と認識しているので、けた外れの金額を必要としているわけではありません。

 宇宙開発には莫大な資金が必要というのはよく聞く話で、たとえばJAXAのH2ロケットは開発には3000億円近いお金がかかっていて、スペースシャトルになると5兆円ほどという想像もつかない金額です。

 でも僕たちのロケットは、一機あたり数千万円の予算で開発・打ち上げをしようとしています。だから拠点がこういう町工場的な雰囲気になるわけですが(笑)」

「そこでISTでは、資金調達にクラウドファンディングを採用しています。」

「寄せていただいたお金は、そのままリアルにロケットの機体となります。投じていただいたものが、ボルトとかエンジンの一部などになります。寄附いただいた方は、このロケットを「自分のロケット」だと思って応援してくださいますし、開かれた宇宙開発を行い、みんなの力で宇宙を目指そうというのは、僕たちが大切にしている価値観です。

 今回は次のMOMO5号機の打ち上げに向けてクラウドファンディングをさせていただきます。MOMOは打ち上げられて宇宙空間に達すると、さまざまなサイエンスの実験をしたり、いろんなモノを積んで宇宙へ行ったりとエンターテインメントの需要も満たすべく仕事をします。MOMOで得た知見やデータは、2023年打ち上げ予定の超小型衛星打ち上げロケットZEROの開発へと活かされ、日本の本格的宇宙開発の礎になっていくことでしょう。

 次代にはロケットという存在がもっと身近になり、「みんなのもの」となっていくはず。その先駆けとなる事業に、ぜひ参加していただけたら。打ち上げの様子を中継などで観ていただくのももちろんいいでしょうし、クラウドファンディングに投じてさらに宇宙を「自分ごと」としていくのも、これからの宇宙との付き合い方として楽しいものだと思います」

▼MOMO5号機の開発・打上げクラファンページはこちら
https://camp-fire.jp/projects/view/202761

Sounding Rocket MOMO-F3 Flight Experiment (after movie)