幼い頃に描いた夢へ「女優に『なりたい!』じゃなくて『なるんだろうな』としか思っていなかった」俳優 髙石あかり

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 夢を持つこと。それはいつだって、人に力を与えてくれる。

 ただし。本当にその夢を実現したいなら、夢を「見たり」「追いかけたり」しているだけじゃ足りない。それだとときに、せっかくの夢を見失ってしまうから。

 じゃあ、確実につかみとるにはどうするか。夢を自分の内側に住まわせてしまえばいい。

 そうすればもう、なくしたり忘れたりするなんてことはなくなる。安心して目の前のことに、集中して臨みさえすればだいじょうぶ。

 夢があるなら、内包してしまえ。

 そんな大切な生きるヒントを、17歳のひとりの女性が教えてくれた。

 彼女とは女優、髙石あかりさんだ。

 小学生でエイベックスのアカデミーに入り、ダンス&ボーカルグループでの活動を経て、2019年から本格的に女優の道に。『おそ松さん3』『鬼滅の刃』などの舞台を立て続けに経験し、この2月には『バレンタイン・ブルー』に出演する。

「カフェバーを舞台にした群像劇で、私はバーに出入りするチアリーディング部の女子高校生を演じます。彼女は何事にも全力投球、だけどハタから見るとちょっと方向性違うんじゃない? だいじょうぶ? って言いたくなるようなキャラクターですね。

 これまでの『おそ松さん3』『鬼滅の刃』は漫画やアニメの原作がある『2.5次元』作品でしたけど、今回は等身大のわたしに近い役柄ですよ」

 『バレンタイン・ブルー』の稽古の場にお邪魔し様子を窺わせていただいた。髙石さんは最年少のキャストということもあって、はつらつさを前面に出して稽古に励む。ダンス&ボーカルグループで培った身体能力を生かした動きは伸びやかで、舞台上でもその姿はきっと大きく見えるはず。

バレンタインブルー稽古風景

「楽しんで取り組めているので、もうそれだけで毎日幸せだなと実感してます。わたしはいろんなことを並行してできるような器用さは持ち合わせていないので、稽古に入ってから公演が終わるまで、頭の中はお芝居のこと一色になっちゃうんですけどね。友だちと遊びに行ったりといった息抜きもほとんどしません。そんな張り詰めた感じまで含めて、お芝居をするよろこびとして味わっている状態というか」

 はたから見ればかなりストイックな仕事ぶりだ。本格的に女優として歩み出してまだ1年ほどなのに、着々と女優としてのキャリアを積み上げられているのは、その一途さゆえだろうか。

 そう問うと、んーむとしばし考えてから、じつは集中して女優道に邁進している意識はあまりないのだと教えてくれた。

 というのも、女優を志したのはずっと前で、演じることに自分の全力を注ぎ込むのは習い性になっているのだ。

「なにしろ女優になりたいと自分で言い出したのは、保育園に通っていたころのことなので。テレビでドラマ『花より男子』を観て、井上真央さんの演技に憧れたのがきっかけでした。将来何になりたいの? って小さいころは誰でもよく聞かれると思うんですけど、周りの子が『ケーキ屋さんかな……』なんてかわいいこと言っているなかで、わたしだけ真剣な顔で『女優さん!』って答えてました。

 お遊戯会でももちろん、いちばん目立つ役を立候補してましたね。単なる目立ちたがり屋だっただけかもしれませんけど(笑)」

 幼児のころに抱いた将来の夢なんて、たいてい長じるにつれどんどん移り変わってしまうものなのに、髙石さんにかぎってそんなことはなかった。小学校に上がると、先述のようにエイベックスのアカデミーに入り、保育園時代の夢を現実のものにしていった。

 当時から続けてきた、女優になるための自分なりのトレーニングや習慣などはある?

「それが生意気なことに、女優に『なりたい!』じゃなくて『なるんだろうな』としか思っていなかったので、がんばって演技の練習をしたような覚えはないんです」

 とはいえ、映画やドラマ、舞台は小さいころからよく観ていたし、観るときにはストーリーを追うだけじゃなく役者の芝居にも着目していた。

「そう、たとえば、哀しいシーンで人はこういうしゃべり方でこんなことを言うのか……と観察して、そのセリフを自分でも言ってみたりするとか。ふつうの状態から何秒で涙を流せるか、ストップウォッチで計ってみたりとかも。わたしにとってそういうのは日常というか、完全に遊びの延長としてありました」

 それはまるで、女優に「なるため」のトレーニングというより、女優「として」の鍛錬のようだ。公式には「2019年から本格的に女優業へ」となっているが、ずいぶん前から髙石さんはすでにして女優だったといえそう。

 けれど事実としては、仕事として女優業を本格化したのはここ1年のこと。やっていくうえで、いまのところ壁にぶつかったりはしていない?

「いえ、いろいろありますよ。たとえば、お芝居の善し悪しを客観的に判断することは、まだまだできていないなと感じます。自分の演技がどれほどのものか、自分で評価できる軸ができてくるといいんですけど。

 俳優には、役柄を思考でつくり上げるタイプと、理屈ではなく役柄に憑依していくタイプがある気がするんです。自分としてはどちらの能力も持ち合わせた人になりたいけれど、いまのわたしには憑依する力がまだ足りないのかもしれない。これでけっこう人の目を気にする性質なので。

 小さいころはそれがひどくて、家にいてもどこかでカメラが回っているんじゃないかというような感覚がいつもありました。ああ、ごはんをきれいに食べないと、だれかに見られてるぞ! というような。お芝居の現場を重ねるうちに、それはかなり治まってきたんですけど。

 考えてみれば、仕事をしていくうえで完全に満足できることなんて、いまのところないですね。ベテランの方々とまだ同じようにできないのは当たり前かもしれないけれど、だからといってそんな現状に『まだ若いんだからしかたないか』と思われるのも、自分でそう納得するのも嫌でしかたない。自分の足で舞台に立っている以上は、年齢やキャリアを言い訳にしている場合じゃないですし。

 幸い毎日、刺激は山ほど受けているので、それをどんどん自分のプラスにしていくしかありません」

 実際、稽古や舞台の場で「怖い……」と感じることもよくあるのだという。

 では、演じていて快感だったり、自分に酔えたりする瞬間は、まだなかなか経験できないんだろうか。

「たまーに、それらしきことはあるんですけどね。共演者の方と呼吸がバッチリ合ったり、演じている状況にすっと深く入り込めたときに、なんというか独特のシビれる感覚がやってくる。その瞬間のあの感じは、ほかのどこでも味わえないものです。

 でもわたしには、どうしたらその感覚を呼び寄せることができるのか、まださっぱりわからない。それであの瞬間を探し求めるようにして、演じることにもっともっと、のめり込んでいってしまいます。役者の先輩方も、みなさん同じようなことを感じてきたんでしょうかね……」

 いまは女優として探求することが、目の前に山ほどある状態だ。それら一つひとつに向かい合うのが、髙石さんの目下の「挑戦」である。

「そのとおりですね。最近思っているのは、お芝居は感情を表現してそれを見てもらうものだから、その感情はできるだけ自分の内側から探り出そうということ。頭でこねくり回した『つくりもの』の感情じゃなくて、ちゃんと本物の感情をドン! と取り出して、観客のみなさんに観てもらえるといいな。そんなことを考えてます。『バレンタイン・ブルー』でも、そういうことが少しでも実現できたらと思って取り組んでます」

 芝居はフィクションを楽しんでもらうものだけど、そこで表現したいのはリアルな感情だ−−。そう話す髙石さんは、「演じること」の深淵を、すでにしかと見据えているように思える。

(文=山内宏泰 撮影=高橋宗正)

『バレンタイン・ブルー』公演情報

【作・演出】堤 泰之
【出演】前島亜美 久保田秀敏 武子直輝 日比美思 飛鳥凛 出口亜梨沙 中﨑絵梨奈 行徳智仁 會田海心 近藤廉 髙橋果鈴 福田愛依 髙石あかり しゅはまはるみ 西ノ園達大
【日程】2020年2月18~2月25日
【会場】博品館劇場

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