ハンツビル、アメリカはこの町から月を目指した

東京・お台場にある日本科学未来館は、いま世界に起きていることを科学の視点から理解し、私たちがこれからどんな未来をつくっていくかをともに考え、語り合うサイエンスミュージアムです。

科学コミュニケーターは、展示フロアでの解説やイベントの企画、インターネットや新聞記事の執筆など、常に科学技術の動向にアンテナを張りながら、科学と社会をつなげる役割を担っています。

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※本記事は、日本科学未来館 科学コミュニケーターブログより転載しています。
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はじめまして、日本科学未来館 科学コミュニケーターの小熊です。

大学院では宇宙ミュージアムTeNQの中にある研究室で火星の地形・地質の研究をしていました。

今は未来館で主に「はやぶさ2」など太陽系探査の話をしています。

今日はアメリカのアラバマ州ハンツビル市にある、アメリカ宇宙ロケットセンター (U.S. Space and Rocket Center )をご紹介します!

これは、あのアポロ宇宙船を月に運んだサターンV(ファイブ)ロケットの実物大模型です。
高さは111m。写真の手前にいる人物と比較すると、その大きさがわかるかと思います。

1960年代にこの巨大なロケットを打ち上げたのかと思うとすごいですね!
ほとんどは燃料タンクで、途中で切り離され、月まで宇宙飛行士と着陸船を運んだのは一番上の黒い線より上の部分です。

どうしてアラバマの田舎町に、この有名なロケットが?!それは、サターンVロケットがこの町で開発されたからです。

ハンツビルは1950〜70年代のアメリカの宇宙開発の中心となった場所であり、現在もNASAが研究所(マーシャル宇宙飛行センター)を置いている“Rocket City”なのです!
当館の毛利衛館長も宇宙飛行士の訓練の一環でハンツビルに住んでいたことがあるそうです。

サターンVロケットのあるロケットセンターでは、宇宙開発の歴史を学ぶことができます。
フロリダのケネディ宇宙センターや、ヒューストンのジョンソン宇宙センターのような知名度と派手さはありませんが、とても面白いところです。

マーシャル宇宙飛行センターの公式ビジターセンターでもあり、1970年にNASAのビジターセンターとして最初に作られました。

「みなさんぜひ行ってみてください!」と言いたいのですが、日本からアラバマは遠いので、私が代わりに展示の一部をご紹介しましょう。

アメリカの宇宙開発の父 フォン・ブラウン

まず、最初の部屋では、アメリカの宇宙開発を振り返ります。1950年、ドイツのロケット開発チームがこの町に移住してきました。

ロケットを作る技術は、ミサイルを作る技術と共通するところが多く、彼らは第二次世界大戦中にドイツでミサイル(V2ロケットなど)の開発をしていました。アメリカにとって彼らは危険な人々です。

しかし、アメリカはその研究を完全に中止させるかと思いきや、ドイツ敗戦後、すぐに彼らを亡命させアメリカに招きます。
それは、優秀な彼らの力が必要だったから。このチームのリーダーは、ウェルナー・フォン・ブラウン博士、「アメリカの宇宙開発の父」でした。

フォン・ブラウン博士のチームは実験を重ね、人間を乗せられるロケットと宇宙船を開発します。

1959年、アラン・シェパード、ジョン・グレンらマーキュリー7と呼ばれる宇宙飛行士7人が選ばれ、有人宇宙飛行計画のマーキュリー計画、ジェミニ計画が進められます(この経緯は映画『ライトスタッフ(The Right Stuff) 』『ドリーム(Hidden Figures) 』などでも描かれています)。
当時は冷戦の真っ最中で、宇宙開発もソ連と競っていました。

人工衛星の打ち上げや初の有人宇宙飛行はソ連に先を越されてしまいます。
何としても月にはソ連より先に行かなければ!

アポロ計画

1961年、「この10年以内に月に人間を着陸させ、かつ安全に地球に帰還させる」というケネディ大統領の力強い宣言から、世界初の有人月探査計画であるアポロ計画が始まります。

1967年アポロ1号の非業の火災事故、68年アポロ7号の地球周回飛行、8号の月周回飛行を経て、ついに1969年7月20日(アメリカ時間)、ニール・アームストロング飛行士とバズ・オルドリン飛行士を乗せたアポロ11号月着陸船イーグル号は月に降り立ちました。

ロケットセンターの一番奥には、本物のアポロ16号の司令船と、12号で持ち帰られた月の石が展示されています。

あの巨大なロケットを打ち上げて、地球に帰ってくるのは宇宙飛行士がなんとか3人乗れるサイズのこの司令船だけ!表面は大気圏突入時の熱で焼け焦げてボロボロです。

当時のテスト機用の部品から完全復元されたサターンV(現存する3つの機体のうちの1つ。

他の2つはジョンソン宇宙センターとケネディ宇宙センターにあります)もあり、中の構造が見られます。
サターンVのエンジンは3段式で、内側に2段目、3段目のエンジンが入っています。端から端までがとにかく長い!立っているサターンVと横になっているものが両方見られるのは世界でここだけです!

アポロ計画は1972年の17号を最後に終了しましたが、もちろんその後も宇宙開発は続きます。

次にご紹介するスペースシャトルは、アメリカの有人宇宙開発での“顔”のような存在でした。皆さんもよくご存知ですよね!

スペースシャトル バスファインダー号

これは実際に飛行した機体ではなく、地上試験用の実験機です。
本物のエンジンや打ち上げに必要なコンピュータは搭載されていないものの、ロケットの部品や鉄筋などで本物とほぼ同じ大きさ・重さに作られています。

これをクレーンで釣り上げて発射台にセットする試験などが行われました(打ち上げに至るまでには、こんな試験も必要なんですね!)。
それらの試験でパスファインダー1号機はボロボロになってしまい、破棄されています。

そのため、これは2号機なのですが、特筆すべきはこの機体は日本に来たことがあるということ!1983年に東京・大阪・名古屋で開かれた大スペースシャトル展で展示されました。

実寸大のスペースシャトルが来るとあって盛り上がったようです。
その後、またここに持ち帰られて展示されています。
こんなところで出会えるとは・・・。

国際宇宙ステーション ISS

このISSを紹介する展示では、まず本物のISSの現在の位置やISSからのライブ映像を見ながらスタッフが説明をしてくれます。
ミッションコントロール室のように、たくさんの画面が並んでいます。

説明を聞いた後は、ISSの実験棟・居住棟の模型の中へ。

写真奥の入り口の上に、日本の国旗とJAXAのロゴがあるのがうれしいです!
宇宙飛行士が外を見る窓、キューポラも再現!

※ISSの模型は未来館の5階にも展示してあります。ご来館の際にはぜひご覧になってください!

そして今、ハンツビルでは次世代ロケットSLS(Space Launch System)や新型宇宙船オリオンの部品の組み立てや試験が行われています。
これはSLSの10分の1サイズの模型ですが、10分の1でもこのサイズです!

2017年12月にはトランプ大統領が「米国人宇宙飛行士を再び月へ送る」と発表しました。
SLSで再び人間が月へ、そして火星へ。
最初のテストフライトは2021年の予定です。完成がとても楽しみですね!

最後に、ロケットセンターではSpace Campというプログラムが開催されています。
泊まりがけで、かなり本格的な宇宙飛行士の模擬訓練を体験できます。
9歳から18歳までが主な対象ですが、大人向けプログラムもあります。

このSpace Campは人気があって、高額な参加費にもかかわらず全米各地から参加者が集まります。
参加したアラバマ大学ハンツビル校の久場桜子さんに話を聞いてみました。
例えば、細かく再現されたISSの模型で船外活動の模擬体験ができるそうです。
全員が異なる役割を分担され、それぞれのマニュアルに沿ってミッションを進めます。

フライトエンジニア役の人は、ミッションコントロールセンターで指示を出す役の人から無線で指示を受けながら、吊り下げられて浮いた状態で船外活動作業をします。

まるで本物の宇宙飛行士みたいですね! このプログラムの卒業生の中には、本当に宇宙飛行士になった人もいます。
火星に降り立つ次の世代の宇宙飛行士もここから生まれるかもしれません!

以上、簡単にご紹介しましたが、ロケットセンターを少しのぞいた気になっていただけたでしょうか?
もし機会があれば、私の大好きなこの場所を訪れていただければとてもうれしいです!

参考文献

  • U.S. Space & Rocket Center Official Book
  • Exploring Space, National Geographic
  • Spaceflight: The Complete Story from Sputnik to Shuttle – And Beyond, Giles Sparrow

※写真は小熊撮影、久場桜子さんより提供

アポロ11号関連展示、開催中!

未来館では、7月13日(土)から9月16日(月・祝)までの2か月間、「人はなぜ、宇宙を目指すのか」をテーマにパネル展示を行っています。

これまでとこれからの有人月探査について、科学コミュニケータートークやイベント(9月15日開催予定)などでもたっぷりご紹介します!

また、未来館のシンボル展示Geo-Cosmosにアポロ11号の月面着陸から50周年を記念して制作した映像コンテンツを上映しています。
詳しくは以下のURLをご覧ください。

https://www.miraikan.jst.go.jp/info/1907030924474.html