宇宙天気予報って知ってますか?

東京・お台場にある日本科学未来館は、いま世界に起きていることを科学の視点から理解し、私たちがこれからどんな未来をつくっていくかをともに考え、語り合うサイエンスミュージアムです。

科学コミュニケーターは、展示フロアでの解説やイベントの企画、インターネットや新聞記事の執筆など、常に科学技術の動向にアンテナを張りながら、科学と社会をつなげる役割を担っています。東京・お台場にある日本科学未来館は、いま世界に起きていることを科学の視点から理解し、私たちがこれからどんな未来をつくっていくかをともに考え、語り合うサイエンスミュージアムです。

日本科学未来館 https://www.miraikan.jst.go.jp/

科学コミュニケーター https://www.miraikan.jst.go.jp/online/communication/

※本記事は、日本科学未来館 科学コミュニケーターブログより転載しています。
 科学コミュニケーターブログ https://blog.miraikan.jst.go.jp/

時は20XX年。明日は久しぶりの家族旅行。
明日の天気はどうだろう?TVをポチッとな。

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TVのアナウンサー「明日の地球天気予報です。
日本は全国的に晴れとなるでしょう」

私「ふむふむ」

TVのアナウンサー「続きまして、宇宙天気予報です。ここ最近、太陽の活動が活発です。月や火星など、大気圏外にお出かけ予定の方は、宇宙線に備え、防護服を忘れずにお出かけください。それでは、よい週末を」

私「ちょっと荷物が多くなるけど、持って行くか!」

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冒頭から失礼しました。日本科学未来館 科学コミュニケーターの中島です。
専門は放射線教育ですが、大の宇宙好きです!

さて、みなさんは「宇宙天気予報」をご存知でしょうか。
未来館にも「宇宙天気予報」の展示がありますが、一体どんなものなのでしょうか?

よく耳にする「天気予報」は、雲の様子や風、降水確率や気温など、地球上の場所ごとの天気がどうなっていくかを予想するもの。
いうなれば、「地球天気予報」です。地球天気を予報することで、起こりうる災害に対して備えをすることができます。

ではここで、もう少し大きな視野で考えてみましょう。

私たちが住む地球は、太陽系の中に位置します。
地球では長い歴史の中で、たくさんの生き物が生まれ、今では人間もその環境の中で快適に暮らしています。
その環境に大きな影響を与えている存在があります。太陽です。

植物を成長させる光、さまざまな生き物たちが生きることができる適度な温度などは、太陽の活動が源です。
私たちの生活に実は深く関わっている身近な太陽ですが、日差しや気温の変化以外にも、その活動のせいで目には見えづらい影響を地球に及ぼしていることを知っていますか?

太陽からの風

今日は風もなく、過ごしやすいわ~!なんて思っているアナタ!実はそんなこと、ないんです!なんと、毎日太陽から宇宙空間に向けて、「太陽風」と呼ばれるものが吹いているのです。

地上で感じる「風」は、空気の流れのこと。つまり、大気中の窒素分子や酸素分子の移動です。

では「太陽風」は何かというと、太陽の大気のガスがプラズマ状態になっているコロナと呼ばれるものが、宇宙空間へと吹いていることを指します。
プラズマとは、原子が高温になることで陽イオンと電子に電離している状態のことです。

なんと太陽風の速さは秒速300~700km!メートルではなく、キロメートルです。「猛烈な台風」でさえ風速は秒速54m以上ですから、まさに桁違い。
太陽風がいかに速いかがわかりますね!

太陽の構造
太陽大気の構造と温度 (©️ISAS/JAXA)

小さな粒が猛スピードで地球にやってくる、と聞くと、なんだかとてつもない悪影響を地球に及ぼしているのではないか!?と思われる方もいると思います。
でも、安心してください。守られますよ!
一体何に守られているのかというと、地球の磁場です。

磁場の影響を受ける範囲を磁気圏と言います。
その磁気圏がバリアとなって、太陽風から地球を守ってくれるのです。しかし、その守りも完全ではありません。

一部は地球に降り注ぎ、例えば「オーロラ」という現象を発生させます。
太陽風として地球の大気圏に入ってきた粒子は、地球の大気と反応し、夜空に赤や緑、紫色のカーテンがなびくようにオーロラが発生します。
その神秘的な現象を引き起こしているのも太陽の影響なのです。

太陽表面では爆発も!

太陽の表面では、太陽フレアと呼ばれる爆発も起きます。
その高さは約1万~10万km、なんと地球1~10個分!
地球がすっぽり入ってしまいます。

実は小さなものだと1日3回ほど起きています。
そして太陽フレアが起こると、コロナだけではなく、大量のエネルギーの高い粒子(陽子や電子など)やX線などの放射線が放出されます。

粒子はフレアが起きてから速ければ約1時間後、X線だとさらに速くて8分ほどで地球に到達します。
さらに、通常の太陽風は秒速300~700km程度ですが、太陽フレアが起きると、速いものだと秒速約1000kmでコロナが吹き荒れることも知られています。

太陽フレア図

ではもし、巨大な太陽フレアが起きると、私たちにはどのような影響があるのでしょうか。

例えば地球から離れたところを飛んでいる人工衛星。
搭載されている電子回路を傷つけたり、太陽光パネルを劣化させたりする原因にもなります。

人工衛星は、GPSや通信衛星など、地球に暮らす私たちにとって、欠かせない存在です。
通信障害や誤ったデータが届いたらどうでしょうか?大混乱を招くかもしれません。

上空400kmの国際宇宙ステーション(ISS)で活動をしている宇宙飛行士には、さらに大きな影響があります。それは、放射線被ばくです。

地上にいる私たちは、磁気圏に加え、たくさんの大気によっても、宇宙からの放射線に守られています。
しかし、大気圏から離れた場所にあるISSはその守りの恩恵を受けることができません。

もし巨大な太陽フレアが起きた時、大気で守られた地表面へとすぐに帰還することができたらよいのですが、そう簡単にはできません。
その場合、放射線被ばくを少しでも減らすために宇宙飛行士たちは、ISS内でより安全な場所へと避難する必要があります。

実は過去には、巨大な太陽フレアによって、暮らしに影響が出たこともありました。
大量の電気を帯びた粒子が地球へとやってきたことで、地球の磁場が乱れ、結果的に1989年にはカナダで、2003年にはスウェーデンで大規模な停電が発生しました。太陽の影響力、大きいですね。

このように、太陽の活動は、宇宙空間のみならず、地球上に暮らす私たちにも大きな影響をもたらします。

科学技術の発展によって、人工衛星が日々の暮らしを支えるようになったこと、たくさんの電子機器に囲まれた生活をしていることなど、生活の仕方を変えてきたことも関係しています。

宇宙天気予報は、常に太陽の活動を観測し、地球天気予報のように今後どうなるのかを予報するものです。
(今回は太陽フレアのお話を中心にしましたが、それ以外にも太陽のいろいろなことを観測、予測しています!)

宇宙天気予報を利用することによって、太陽で何か起こった時、被害を小さくするための私たちの行動に役立てられるかもしれません。
まずは未来館で宇宙天気予報を見て、感じてみてください。

ひょっとすると、地球天気予報だけではなく、宇宙天気予報がテレビに流れる日がやってくるかも?

アポロ11号関連イベント、開催決定!

未来館では、アポロ11号の月面着陸から50周年を記念し、シンボル展示Geo-Cosmosにアポロ計画に関する映像コンテンツの上映や、「人はなぜ、宇宙を目指すのか」をテーマにパネル展示を行っています。

9月15日(日)には、『宇宙兄弟』のシーンを振り返りながら、月探査の現状と未来について、専門家とともに考えるイベント「月探査のリアルと未来 ~漫画『宇宙兄弟』を徹底調査!」を実施します。
イベントは抽選制で、9月3日(火)14:00が申し込み締め切りです。
詳しくは以下のURLをご覧ください。

https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1909151424642.html