【月のその先へ】“宇宙天気予報の第一人者” 片岡 龍峰の挑戦

「人類の究極のミッション」は、研究者同士でもよく語られている議題。もし、全人類の世界の考え方を変える挑戦があるとしたら、研究者はどのような取り組みを行い、何のために研究していくのでしょう。

国立極地研究所の研究者であり、宇宙天気予報の第一人者でもある“片岡 龍峰さん”は、 『宇宙兄弟』の中で宇宙天気の技術面を監修してくださったこともあり、深いつながりがあります。

ちょっとだけ無理なことに挑戦する方々を取材するこの企画。
これまでの取り組みから、研究者としての今後の挑戦を聞くため、『宇宙兄弟編集部』が国立極地研究所にいる片岡 龍峰さんを訪ねてみました。

『宇宙兄弟』とのつながり

マンガ『宇宙兄弟』の技術面の監修で協力してくださっている片岡さん。いつもご協力本当にありがとうございます。当時(2017年)、太陽フレアの文献や資料を調べていたのですが、なかなか見つからず、編集としてはすがるような気持ちでご連絡しました(汗)片岡さんが居なかったら今のようには描けなかったんじゃないかと思います。

僕もその時リアルタイムに『宇宙兄弟』を読んでいて、磁気嵐でムッタが困りそうだという予告を見て、これはどうなるんだろうと心配してたんです。
そんな時に依頼があったので「待ってました!」という感じで、嬉しかったです。


片岡さんに監修をしてほしい旨をお願いしたら…

「宇宙兄弟!喜んで引き受けます。」
“史上最即答”の優しいメールが返ってきました。名言ですね(笑)

元々ファンだったので。
『宇宙兄弟』は単行本を買って読んでみたらすごく面白くて、いつも新刊を楽しみにしていました。 ムッタは三十代で、自動車メーカーに勤めていて、上司と喧嘩してて(笑)

ムッタが弟のヒビトの悪口を言われて、つい上司に頭突きしちゃうシーンですね(笑)

僕もちょうどムッタと同じ世代で、日常生活も共感できたし 、すごく笑えて面白かった。

時同じくして、“宇宙飛行士候補者選抜試験”を受けたんですが、一次試験でJAXAの方がこうおっしゃったんです。


「実は、あなた達の誰かが、月に行くことになると思います」

てっきりISS(国際宇宙ステーション)の中で複雑な実験を短時間にこなす人を探してるのかと思ったけど、少し未来に月へ行く日本人がこの中の候補者にいるのかなぁと。生きてる間に月に行くっていうのは、その時の現実的な目標であり、 自分たちにとっての究極の目的地なのかなぁと思いましたね。

JAXAの宇宙飛行士選抜試験の受験票と、NASAのぬいぐるみを手にする片岡さん

「宇宙天気予報」を研究テーマに

片岡さんは、「NASAゴダード宇宙飛行センター」にも行かれていますね?

国際会議で出会ったNASAの先生と交渉し、ポストドクター(博士号取得後に、任期付きの職に就く研究者)として受け入れてもらいました。ゴダードには1万人くらいの研究者がいて、敷地の中には人工衛星を作る工場などもたくさんあるので、中々見所が多い。いろんな国から来た人たちが夢を持って集まっていて熱気があります。ゴダードで同じ時期を過ごした友達は「仲間」で、今もよく国際会議とかで会うと嬉しい。戦友みたいな感じです。

素敵ですね!その時片岡さんは、どんな研究をされていたんですか?

それまでは5年間オーロラという狭いテーマで熱中して研究していたのですが、逆にすごく広い分野に取り組みたい気持ちもあり「宇宙天気予報」を研究テーマに選びました。

修士の時にアメリカに留学したことがあって、“宇宙天気予報の父”と呼ばれる有名な先生に教えてもらった影響もあります。

物理を解明するのも研究の大きな魅力ですが、もしかしたら僕のやりたいことはもっと広く見ることかもしれない、普通の研究者でくっ付けられなかったものをくっ付けていくことで、ユニークな貢献ができたりしないかなぁと思って。少し先の未来には直接的に人の役に立っていく、単なる科学ではない実用科学的なこともやっていきたいと思ったんです。

国立極地研究所での取り組み

片岡さんは今、「オーロラ」や「宇宙天気予報」など、今までの研究分野と密接に関わる国立極地研究所で活躍されていますが、研究者としてどのようなことをされてきたのでしょうか?

最近は自分で組み立てた特殊なカメラを世界中に置いて、オーロラを観測しています。オーロラは毎回毎回ちょっと顔が違うし、自分が予想しているのと違うことが多いです。

人間の目は1秒に10フレームくらいの動きしか分からないんですけど、このカメラだともっと桁違いなフレーム数で調べられるので、スローモーションにして観察できます。すると、オーロラが生き物みたいに動いて見えるんです。多分電流が流れすぎるとオーロラの中身が点滅したりするんですけど、そういうことも予測できないし原理もよく分からない。その謎に、すっかりはまっているんです。

自分で研究データを取得していくスタイルを、2010年くらいから始めることが出来ました。大自然に出かけて全力で体も動かして、頭もすごい活性化して、生きている感じがするんです。セッティング中にオーロラが出てきたり、だいたい予定通りには上手くいかないけど、そういうスリリングな活動も楽しんでいます。

画像の出典:国立極地研究所

研究者・片岡 龍峰による火星への挑戦

素材まで調達しながら、研究を重ねてきたんですね。片岡さんは研究者として、これからどんな挑戦をしていきたいのでしょうか?

僕が今挑戦しているのは『火星の天気予報』です!

少し前は月に行くことが人類の目標だったけれど、今の人類の目標は火星。月は3日くらいで行けますけど、火星は百倍くらい時間がかかります。火星に行くことは、それこそ地球上の全員が助け合わないと、多分実現しない究極の目標。誰かが火星に行くと言うのは、今生きている地球の人たちの大きな夢の一つだと思うんです。

最近共同研究で開発した作品で、地球の航空機パイロットが太陽フレアのときにどれくらい被ばくするかを予測できるようにしたので、それを火星に応用するつもりです。

始めたばかりの研究なので、毎日火星の論文を読んでは驚いています。火星には磁場がないから単純だと思っていたら、全然そんなことはなくて。

難しいけれど、僕は自分の仕事として責任をもって実現させたい。多分チームを組んで何年かやれば実現できる。それは火星に行った人を直接守ることにもつながりますし、他にも色々と新しい分野として展開できそうな楽しみがあります。直球勝負の今の挑戦というか、僕のやってきたことを総結集して、これからやろうとしている挑戦ですね。

まさか、火星の話が聞けるとは思っていませんでした!とても難題だと思うのですが、人類の夢をかけた壮大な挑戦ですね!!

僕はいつも、意識的に無理そうなことを発言するようにしています。

そうすると結構実現するんですよ。聞いてる人の中にその希望を助けてくれようとする人もいるので、往々にして実現していく。

たしかムッタは子供の頃に、火星に行くって言ってましたね。今でもすごい行ってほしいなと思ってるんです!あぁいう風に言ったことは実現しちゃうんですよ。僕はいつか、シニアのムッタが火星に行ってくれると信じています。


まとめ

今回取材を通して、片岡さんがもつ研究者としての探究心や、月のその先へのさらなる挑戦を伺うことができました。

多くの人間の知性を高める驚きの発見や事実を手に入れたい者、湧き出る探究心を満たすために分析する者、常識を覆すような自然の在り方を伝える者、あるいは人に貢献するために研究活動を続ける者など、様々な目的によって研究者たちは果てしない挑戦を続けています。

人類が月に到達してから50年。ちょっとだけ無理なことに挑戦してきた積み重ねが、究極のミッションを生み出し、新たなる挑戦の始まりを作るのかもしれません。

いずれ人々に貢献していく『火星の宇宙天気予報』も、今後の行方が楽しみですね。片岡さん、取材にご協力いただき、ありがとうございました!


挑戦者 片岡 龍峰のイチオシ!

SF小説「星を継ぐもの 」「タイタンの妖女」

限界を仮定しながら人は生きていますが、SFは物理学的に矛盾することなく、可能性の果ての先みたいなものを見せてくれます。好奇心や未来への志が詰まっていて、独特な魅力があります。


片岡 龍峰さんのプロフィール

1976年宮城県仙台市生まれ。2004年に東北大学で博士号をとり、学振特別研究員として情報通信研究機構、NASAゴダード宇宙飛行センター、名古屋大学太陽地球環境研究所と毎年引っ越し、2007年から理化学研究所の基礎科学特別研究員。2008年宇宙飛行士候補者試験に脱落。2009年から東京工業大学の特任助教。2013年から国立極地研究所の准教授。

執筆者プロフィール

ゆみ
星空をこよなく愛する宙ガール編集部員☆『宇宙兄弟』公式サイトにて、宇宙関連情報記事のライターを担当。