【刊行記念トークイベント】JAXAのフライトディレクタ“W大地”に『宇宙兄弟リアル』な話を聞いてみた!

2019年8月23日に、書籍『宇宙兄弟リアル』が出版されました!

書籍『宇宙兄弟リアル』は、漫画と対比させ、JAXAで働く実在の人物を徹底取材した本です。この本を読むことで、漫画には描かれていなかった宇宙開発最前線の現場をより深く知ることができます。

この本が出版された翌日、JAXAのフライトディレクタ2名をゲストにお迎えし、アポロ月面着陸50周年記念 TeNQ×宇宙兄弟スペシャル企画『宇宙兄弟リアル』トークイベントが開催されました。

登壇者は、佐孝 大地さんと中村 大地さん。同じ名前であることから、JAXAでは「W(ダブル)大地」という愛称で呼ばれています。

若くしてその能力と仕事ぶりを評価され、「きぼう」日本実験棟の運用管制室で指揮を執るフライトディレクタとして、金井宇宙飛行士のISS(国際宇宙ステーション)長期滞在の前半と後半を務めたお二人。トークイベントでは裏話やエピソードなど、宇宙開発のリアルな現場を聞くことができましたので、そのイベントレポをお伝えします!


W大地 プロフィール

佐孝 大地

1983年生まれ、埼玉出身。

東京大学大学院航空宇宙工学専攻修了後にJAXAに入社。2015年7月に「きぼう」のFDに認定。2017年7月に金井宇宙飛行士のISS長期滞在インクリメント54担当FDに就任。

中村 大地

1988年生まれ、東京出身(埼玉育ち)。

日本大学航空宇宙工学科卒業後にJAXAに入社。2016年4月に「きぼう」のFDに認定。2018年3月に金井宇宙飛行士のISS長期滞在インクリメント55担当FDに就任。


フライトディレクタとは?

フライトディレクタは、「きぼう」日本実験棟の運用管制官たちを指揮しています。

「きぼう」で作業する宇宙飛行士と通信する「J-COM(ジェイコム)」、電力・通信を担当する「CANSEI(カンセイ)」、熱や環境を担当する「FLAT(フラット)」、宇宙飛行士や管制官の運用スケジュールを管理する「J-PLAN(ジェイプラン)」、地上設備を担当する「TSUKUBA GC(ツクバ ジーシー)」など、彼らを取りまとめているのが、「J-FLIGHT(ジェイフライト)」であるフライトディレクタ(以下、FD)です。

また、ISSでの電力・通信・宇宙飛行士の作業時間など、限られたリソースをめぐり、自国の実験や作業に有利な状況に運ぶため、各国のフライトディレクタ同士が交渉に励んでいます。

NASAの名物フライトディレクタ「ビル・ハガード」
Credit:JAXA
筑波宇宙センター内の「きぼう」日本実験棟 運用管制室

「きぼう」日本実験棟 運用管制室の管制官たち

ー 管制室にいる管制官たちは色々な役割についているようですね。彼らを束ねるリーダーがFDなわけですが、「きぼう」日本実験棟の管制官はどんなことをしているのでしょうか?

 宇宙飛行士だけでは宇宙で生活できないので、運用管制室にいる私たちが地上から遠隔操作などをし、彼らを支援しています。例えば、宇宙での生活や実験のためにたくさんの電気を使いますが、管制官の中でも「CANSEI」の役割は、その電気をどういうふうに使うかを管理したり、電波が悪い時に通信を調整したりします。

 宇宙飛行士が快適に過ごせるよう、エアコンの空調の上げ下げのリクエストもけっこうあります。空調は古い設計なので中々融通がきかないし、宇宙飛行士が自由に温度設定できるわけではないので、地上の管制官にリクエストが上がります。

 「温度ってそんなに簡単に変えられないの?」と聞かれるんですけれど、室温を下げすぎると結露の心配があり、機械が壊れてしまう恐れがあるんです。

 宇宙の中では、窓を開けて換気できないですからね。エアコンだけではなく、いろんな機械を動かしているので、冷却水を使って機械を冷やしたりとか、そういうコントロールも管制室で担っています。

ー 実際にISSにいる宇宙飛行士とやり取りされているのはどなたでしょうか?

 宇宙飛行士と会話をするのは、通信を担当する「J-COM」の仕事です。

元々NASAとかでは、宇宙飛行士と話す人は同じく宇宙飛行士の方でした。地上で一緒に訓練をしてきた“同じ釜の飯を食った仲”の人がやっていた歴史があります。

ー FDが宇宙飛行士とやり取りしているのかと思ったら、そうではないんですね。

 専門の方がいますね。必要な内容を簡潔に分かりやすく伝える必要があるので、内容を理解している宇宙飛行士がJ-COMを務めるのは、おそらく一番効率的なんじゃないかなと思います。

日本だと宇宙飛行士がそんなに多くなかったり、日本に居ないことも多いので、別の方がやっていたりもします。

Credit:JAXA
宇宙にいる金井宇宙飛行士と交信するJ-COM担当の大西 卓哉さん

ー J-COM以外にも、「J-PLAN」というポジションもあるようですね。どんな担当なのでしょうか?

 宇宙飛行士は半年くらいISSに滞在している間、1日も途切れることなく“5分刻み”のスケジュールが土日平日を問わず存在します。

起床や就寝、ミーティングや作業など、何時何分からというのを全て5分刻みで、それこそ毎日のように組まれているんです。トラブルやその時の作業進捗でスケジュールが変わっていくのはしょっ中ですが、それを調整しながら、最終的にその日何をやるのかをきれいに組んでいくのが運用計画を担当する「J-PLAN」です。

実際にトークイベントの来場者にヘッドセットを付けていただき、フライトディレクタ間の通信を擬似体験

各国のフライトディレクタ同士のコミュニケーション

ー 管制室では、最大16の音声チャンネルが聞こえているようですね。

 宇宙飛行士と話すチャンネルや、NASAとJAXAをつなぐチャンネル、あとは専門家同士が話すチャンネルなど、様々なチャンネルがあります。

それを普段16個ぐらい同時に付けていて、必要な会話は音量を上げて聞いています。

ー 普段FDがNASAの管制官と話す時には、それらの会話をみんな同時に聞いているのでしょうか?

 はい。みんなが共有し理解できるようにするため、先ほど言っていた主なチャンネルを通して、みんなが聞いています。

ー それ以外に、「裏チャンネル」があるというのは本当ですか?

 普通は他の国も聞いているし、本当にいろんな人が聞いてるんですけれど、それとは別に2人だけで会話ができる裏チャンネルも存在します。

 複雑なやり取りをしなければならない時によく使いますね。

みんなで使うチャンネルでは簡潔に話す必要がありますが、話しきれない所がどうしてもあります。「こうしたい!」という希望を伝えたいのに、それだけだと何も伝わらないんです。

関係者にあらかじめ話をつけておく習慣って日本だけじゃなく、実はアメリカでもよくあることなんです。そういう経緯を経て、オフィシャルな所で話をしてOKをもらったり、交渉していますね。

Credit:JAXA/NASA
NASAジョンソン宇宙センターにあるミッション・コントロール・センター(Mission Control Center: MCC)の様子

仲間でありライバルでもある

ー 世界各国のFDとのコミュニケーションについて、“仲間でありライバルでもある”と伺ったことがあります。それぞれどのようなシーンでそう思いますか?

 まず、“ライバル意識”について。ISSはいろんな国が一緒に関わりつつも、各国やりたいことは異なります。宇宙飛行士のスケジュールは5分刻みというお話をしましたが、スケジュールを組むのは難しいので、その時にどう各国で調整していくか、お互いに譲り合うこともありますが、お互いにライバルという意識もあります。

 “仲間意識”について言うと、計画調整もそうなんですけれど、リアルタイムに本番で起こるトラブルにお互い協力し合って対処している場面です。

ゴールはみんな同じなんです。“ISSを使って科学の実験をする”、“今後の有人宇宙探査に向けた技術実証をしていく”という目標があって、そこを伸ばしていくために、アメリカやヨーロッパやロシア、みんなで協力し運用しています。

 宇宙を目指すという意味で、結局みんな同じ方向を見ているんですよ。

「宇宙の話をしよう」

閉鎖空間でのJAXAの試験で、仲間との不穏な空気を鎮めるためにムッタが言った一言です。まさにそういうことで、プロジェクトを通じて世界中に同じ想いを持つ者同士。色々調整とかはあるものの、そういう意味で仲間と言えます!

漫画『宇宙兄弟』♯30「宇宙の話をしよう」
Credit:JAXA
筑波宇宙センター内の「きぼう」日本実験棟 運用管制室にいるW大地のお二人

フライトディレクタへの道

ー FDになるための道筋を教えてください。

 国家資格とかは無くて、JAXA内部での資格があります。

なので、JAXAないしはISSの運用会社に入ることがスタート地点になります。

管制官に選ばれたあとは、様々なステップがあるんですけれど、実は宇宙飛行士と一緒に訓練を受けたりします。その他に、座学や英語の試験などもあります。

そして、一番最後に難関の試験があるんですよ。

 管制室はもう一個ありまして、訓練するために同じ設備の管制室があります。模擬データを表示させて、本番と同じような感じでシミュレーション訓練をします。

ー その難関の試験は一発合格できましたか?

 私は一発で。

 私は……。『宇宙兄弟リアル』の本を見れば、何回落ちたかが分かる、という感じですね(笑)

一発で受かるのは、中々すごいことですよ。

この試験は6~7時間くらいの長時間をかけて、様々な不具合が複合的に重なり合い、最後めちゃくちゃになってしまう。そういうシミュレーションを受けて、最後までFDとして大丈夫か適正を見られています。

 プレッシャーがすごいんですよね。ありとあらゆる問題が連続で起きる中で、「FDどうするんだ?」と聞かれたりするんです。本当に精神的に鍛えられますよ。

 シミュレーション訓練は、NASAの人も一緒に行う訓練もあります。

そうすると、ヒューストンにいる本当のFDと一緒になったりして、訓練とは言えトラブルも色々発生するので、彼らは彼らで大変なプレッシャーを感じます。普段とは違う本性も見えるので、一緒に訓練すると仲良くなったりしますね。

フライトディレクタの未来

ー 宇宙開発が進む中で、今後FDの仕事はどういう変革を迎えていくと思いますか?

 FDというのは、有人宇宙特有の仕事です。複合的なシステムによって、人間が生活している所のシステムを動かすので、幅広いポジションとなります。

人間が宇宙に行く限り有人宇宙開発は進みますし、それを支えるFDの活躍の場は、今後も広がっていくのかなと思います。

ー それでは、FDに必要なスキルとは何でしょうか?

 たくさんある中でも大事だと思うのは、「話を聞く力」です。

初めてFDになった時に思ったのは、他の管制官たちがみんな言いたいこと主張してくるなあと感じたことです(笑)。
けど、遠慮して言わないわけではなく、自分の立場で色々言い合えることを、良いチームだなと思うんです。
それを上手く聞いて、言いかえる力を持つのがFDかなと思います。

 コミュニケーションももちろんありますが、やはり宇宙では何が起こるか分からない。しかも何か起こった時に宇宙飛行士だけではなく、地上の管制官もものすごいプレッシャーにさらされます。

何があっても自分が最後に責任を持って宇宙飛行士を安全に。そして、実験も成功させる。そういう「打たれ強さ」や「プレッシャーへの強さ」が必要です。

あと、FDを合わせた管制官もそうなんですけれど、みんな前向きで建設的な話をしている印象があって、そういう「前向きさ」も必要かなと思います。

ー 貴重なお話をありがとうございました!

まとめ

今回、W大地のお二人から、FDの役割やスキル、責任の重さまで感じ取れるお話を聞くことができました。

宇宙開発最前線で起きたリアルな物語、情熱溢れる仕事への向かい方、宇宙と地球に目を向けて生きる人間の力強く壮大な人生観が宇宙開発の現場にはあり、書籍『宇宙兄弟リアル』にはそれらがたくさん詰まっています。

また、『宇宙兄弟リアル』を読むことで、漫画『宇宙兄弟』を10倍楽しく読めるようになります。

まだ読まれていない方は、『宇宙兄弟』最新刊近くにありますので、本屋さんでぜひ見つけてみてください!

書籍『宇宙兄弟リアル』

『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたちのモデルともなったリアル(実在)な人々を『JAXA』の中で探し出し、徹底取材した書籍が出ました!大幅加筆で、よりリアルな宇宙開発の最前線の現場の空気感をお届けします。


本記事は、2019年8月24日に行われた“アポロ月面着陸50周年記念 TeNQ×宇宙兄弟スペシャル企画『宇宙兄弟リアル』トークイベント【リアルの現場にはマンガと同じ感動があった】”の内容を起こしたものです。

執筆者プロフィール

ゆみ
星空をこよなく愛する宙ガール編集部員☆『宇宙兄弟』公式サイトにて、宇宙関連情報記事のライターを担当。

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